「紐靴での足の前滑りトラブル」における足甲のフィットの重要性
___「タンパッド」の活用と「足留まりの良い靴」___
ザックスオオヌマ靴店
大沼義明
茨城県土浦市というところで靴販売をしております、大沼義明と申します。今年で創業118年目の靴屋で、日々、お客様の足と靴のフィッティングに取り組んでおります。
■緒言
紐靴、スリッポンに限らず靴販売店の店頭で「足の前滑り」を悩みとして訴える消費者は、近年、多いように思います。弊店で2024年1月1日から12月31日までで、靴トラブルの相談が目的の新規顧客、94名のうち
自覚している人が17人、18.1%
自覚していないが、私見ですが、この後のタンパッドによる調整法が有効であったので、結果的に前滑りが原因と思われる人を含めると62人、65.9%です。グラフ
消費者が困っているのは、言われたように紐締めをしても痛いだけで「前滑り」が止まらないことです。が、販売員から見て、正しく締めることができているか、前滑りを止められたかどうかの評価は難しいものです。
結果、「前滑り」が止まっていないにもかかわらず、「痛い程締めたのに止まらない」のだから
「これがこの人には限界だろう」
「いや、きっとお客様の気のせいで、実は前滑りは止まっているのではないか?」
「多少は改善したのだから、これで良しとしてもらおう」
というように考えて、そのまま販売してしまうかもしれません。
一方、足が前滑りすれば、靴の中で足趾が圧迫され、痛み、痺れや、爪や足趾の変形、歩様が悪化するなどの、様々なトラブルの原因になり得ることは知られています。
前滑りを防ぐ調整方法はいくつか考えられますが、ここではそのうちの一つとして、「タンパッド」を用いて足甲のフィットという観点から、この問題の概要と解決法を考えてみたいと思います。
■目的
痛い程に紐締めをしても足の前滑りが止まらない原因と対処法について考察します。
その前に何が起きているか前提を示します。
紐靴の場合です。靴の中でヒールカウンターに足が密着している状態で、捨て寸が十分にあるものとします。
図のように足甲と靴の紐部分が密着して、足の前滑りするのを「面」で防いでいる状態が理想です。
が、図のように足甲と靴の紐部分にスキマがある。すなわち足に対して靴が甲高すぎる場合、たとえ適切に紐締めをしても、蝶結びの辺りで「前滑りが点で引っかかっている」状態になり、痛みを生じます。
店頭で販売員が「前滑りを防ごうと紐締めをしたのに痛いと言われてしまう」原因はこの状態です。
■方法
以下のように「タンパッド」を用いました。
①足甲に対して靴が隙間がなくフィットしている場合
②足甲に対して3㎜、靴に隙間があり、フィットしていない場合
③足甲に対して6㎜、靴に隙間があり、フィットしていない場合
・店頭で行うのと同様にMP部の靴の甲を触診と目視で確認する。写真
・それぞれにおいて、正しく紐締めをする。写真
・5分間歩行し、
踵スキマ、捨て寸
をチェックする。
次に、足甲に対して隙間がある靴に「タンパッド」を使用し、前滑りが止まるか同様に評価する。
〈タンパッド〉
既製品
自作 赤連泡10㎜厚、7㎜厚図
をハサミでカットして使用 写真
■結果
5分間歩行の結果、
①足甲に対して靴がフィットしている場合には、紐締めをし、足の前滑りが止まった。
②靴が3㎜甲高すぎる場合、前滑りが止まったが、5分程度の歩行で楔状骨付近に痛みを生じた
③靴が6㎜甲高すぎる場合では、紐締めをしても足の前滑りは止まらないうえ(踵写真)、1分間の歩行で蝶結び、履き口前縁、付近に痛みを生ずる。図
〈タンパッド使用〉
適切なタンパッドを使用する事により圧が分散し図、紐が「効く」ようになる。結果、前滑りが解消する
既成品の2㎜厚のタンパッドを2枚重ねて使用する事により圧が分散し、紐が「効く」ようになり。前滑りは止まるが、足甲の形に添いづらいので、楔状骨付近に痛みを生じた。
■考察
足甲に対し、靴が3㎜以上甲高すぎる場合、紐締めの効果が制限され、正しく紐締めをしても、むしろ痛みを生ずる。
足の前滑りを止める為には、紐締めは勿論、足甲がよりフィットしていることが重要であると示唆された。
ちなみに
伸びてしまった靴
近年多いと思います、
・外反母趾など、開張足傾向の足で、痛みがあるのでMPはこれ以上圧迫したくない
が、そうなると足甲が合わなくて前滑りが止まらない
場合などにも有効
■結論
足甲の緩い靴は着脱がしやすく、足当たりが楽に感じるので「接客せずにセルフで販売しやすい靴」と言えます。私見ですが、20数年前から徐々に増えていまではすっかりそういう靴ばかりになってしまったと思っています。が、それは、「正しく紐締めをしても前滑りを防ぐのが難しい靴が増えた」という事であり、消費者に気づかれずに様々なトラブルの原因となり得る靴が増えているという事でもあります。
靴販売店では、紐締めの指導は勿論、足甲のフィットに注意を払い、「足留まりの良い靴」を品揃え、提案できるよう努める事が急務であると考えます。